月別アーカイブ: 2011年3月

街場のメディア論

著者はここ数年、一般人にも名が知られてきた大学教授。大阪市長の特別顧問もしてるんですね。知人の薦めで読んでみました。
 
街場のメディア論
著者:内田樹
 
大学での講義内容を元に書かれているので、対象は二十歳前後の若者ということです。ですからまず、働くというのはどういうことか、就職とは何かというような切り口で「キャリア教育」についての考えから始まります。そして、本題の「メディア論」、「著作権」などについて講義が進んでゆきます。
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全体の印象としては、突っ込みどころ満載やなぁというところ。もしかして生徒の質問を誘うため、わざと脇を甘くしているのかと思うぐらい。私は本を読むとき疑問に思ったところへ付箋を貼ってメモ書きするのですが、読み終わった時にはこんなふうになりました。特盛りだ。
 
こんなに疑問点が多いのは、著者が問題点として取り上げる部分はいいとして、その原因に対する考察があまりに雑なせいだろう。これは、原因として挙げた部分が、著者の経験則から導き出された考えであるため因果関係を説明できておらず、いかにも後付の添え物のような扱いになっている。つまり理屈の正しさを軽視しているところからきている。60年生きていても人間一人が経験することなんてたかが知れているのだから、経験から導きだしたり、それを例として取り上げるのは止めておいた方がよい。
 
とにかく、随想ならこれで結構だと思うけれど、生徒へ講義する内容かと考えるとかなり疑問。こういう言説をする人物をもてはやす現代メディアに対しても疑問を持つ。こんな根拠薄弱なものを”街場の・・・論”なんて言って欲しくは無い。或いは”街場”というのは著者の逃げなのか。
 
本当はこの数倍感想を書いたけど、途中でばかばかしくなったので一つだけ書くことにする。
 
「現代メディアは・・・」というような定型的な批判に対して批判しているが、著者自身、教育、医療、メディアなどで起こっている問題点は、小泉政権で行われたグローバリズム、市場原理主義が原因だ、という定型に陥っている。そこから更に踏み込まないとだめ。
 

虐殺器官

近未来、暗殺を主任務とする特殊部隊に所属する主人公が、世界中で起った大量虐殺の原因となっている男を追うお話し。知人の奨めで読んでみました。
 
虐殺器官
  著者:伊藤計劃
 
始まりから終わりまで主人公目線で書かれている。この主人公に語らせることで近未来の世界を完璧に描いている。世界観、テクノロジーに関する構想力、想像力とその表現力には目をみはる。
 
だが、これは著者に対する評価であって、小説に対する評価は180度変わってしまう。この描き方では、主人公のタイムスケールで物語が進行してしまう。にも拘らず、この主人公が精神的な事、哲学的な事、テクノロジーなどについて、うだうだと思考する。この結果、小説自体が冗長で退屈なものになってしまっている。言い換えればスピード感が無い。スピード感が無いから緊迫感が無い。緊迫感が無いから物語に引き込まれない。残虐な殺し方を描いていても、全く臨場感がない。まるで作中に出てくる戦闘適応感情調整(少年少女を殺しても兵士の精神にダメージを与えないようにするカウンセリング)を読者が受けてしまったようなもの。
 
ストーリーにおいては、第四部のインド編は陳腐で余計。敵地に侵入するのも戦うのも脱出するのもスーパーテクノロジーなのに、インド国内での捕虜の移送におんぼろ列車って。おかげで先が読める展開。幾らなんでもこれは無いわ。興ざめもいいところ。
 
SF”設定”としては秀作。でも、アクションスリラーとしては駄作。溢れる才能に表現が負けてる。もったいない。
 

つれづれ

この度の災害に被災された方々、特に愛する方を亡くされた方々に哀悼の意をささげるとともに、心よりお見舞い申し上げます。
 
こちら大阪南部では、揺れを感じない人の方が多かったようです。私はモニターに映しだされている文字が揺れるので、多少動揺しながら椅子に座り直し、もう一度画面をよく見て、やはり文字が揺れてることを確かめてました。『あ…目が回ってるのか、病院に行くかな。』なんて考えてました。するとすぐにラジオから東北地方で震度7の地震があったとの情報が流れたので、東北の地震で大阪まで揺れるのかと驚くと共に、被害の大きさを想像したのですが、東京があんなことになっているとはこの時点では想像できませんでした。
 
その日の夕方には、私の廻りで揺れの影響を受けた人がみんな揃って「目が回ってる、病院行かな。」って思ったってことを知り、それはそれでおかしかったのですが、これは健康不安を抱えていることの裏返しなのかなぁと、妙な納得をしてました。
 
関東圏の知り合いへ連絡を取るのを躊躇していたのですが、次々メールで知りたいことをくまなく送って来てくれたので安心しました。こういう時に、その人の文章力というものに感心させられたりもします。
 
あれから一週間になりますが、自粛ムードが出てきてますね。経済的にも気分的にもこれは良くない。自粛するならメディアこそ自粛するべき。節電する必要があるならまずテレビ放送をやめてしまえばいい。1チャンネルあれば十分だと思うのだけれどどうでしょう。控えるべきものとそうでないもの。この辺りのアンバランスさは相変わらずだなぁ。報道についてもう一つ。どこも同じ切り口なのも相変わらず。被害の大きいところを伝えたいのは分かるけど、震度7の地域がどうなっているのか見た記憶がない。被害が無いといいのだけれど。
 
そんなこんなで昨日からワイドショーやニュース番組を見るのは止めました。気が滅入って健康にも良くないし、自粛したってなにも改善しない。ひとりひとり、いつも通りに過ごして、世の中を回していかないと、と思いますがいかがでしょう。
 
仕事への地震の影響も徐々に出てきました。合板類は入手困難。昨年から納期4ヶ月といわれていたグラスウールは入荷の目処が全く立たなくなりました。そろそろ工事がストップする現場も出てきそうです。
 
今年は週一冊本を読むということで、経済関係の本も何冊か読みましたが、日本にはデフレギャップがある。つまり供給能力過剰という話が出てきます。しかし、ここのところの品不足を見ていると本当にそうなのだろうかと疑問も出てきます。生産余力をそぎ落とし過ぎているのではないか。人は余っているが、設備がない。余力=ムダと考えたのではないか。この辺りがマクロとミクロの違いなのか、この震災は経済浮揚のきっかけになるのか、はたまたインフレを招くのか。この辺りの議論は注目してみようと思います。
 
原発は…祈るしかない。
pray for japanの意味合いが変わってきそうだ。